試料挿入孔封鎖型空洞共振器
世界の岩塩の電波減衰長を室内で推定するため、VHF・UHF帯からマイクロ波帯において、低損失誘電材料の複素誘電率測定法の開発を行っています。
マイクロ波帯の低損失誘電体の複素誘電率ε（誘電率ε´および損失係数tanδ=ε´´／ε´）の測定法としては、（１）摂動空洞共振器法や、（２）誘電体共振器法（写真３）が用いられています。しかしながら、V・UHF帯の周波数帯で、100MHzから1GHzの周波数における低損失誘電材料の損失係数の測定法は、図１で示されるように未だに確立されていません。そのため、当然ながら多くの低損失電気材料の測定データが存在しません。
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図１．マイクロ波帯における複素誘電率測定法（誘電正接 tanδ）の種類 （参照文献: 橋本, 「高周波領域における材料定数測定法」, 森北出版, 2003; Agilent Application Note など） |
この周波数帯で測定法の開発が困難だった理由は以下が考えられます。
（１）の空洞共振器法（摂動法）では、マイクロ波帯と同様にQの高い摂動共振器を作成しようとすると、共振器の直径および、高さが大きくなり、その結果非常に長い測定試料を用意しなければならなくなり、作成が困難となる。
（２）の誘電体共振器法では、材料自身が共振器となるためには、試料寸法が巨大となり作成が困難となる。
摂動共振器法において、試料のあるときとないときの共振周波数およびQの逆数の変化から複素誘電率を求める摂動公式を図2に示します。共振器は、通常円筒TM010共振器や、矩形TE１０ｎ共振器が用いられます。試料は、電界のみ存在する中心部分に置きます。摂動公式が成り立つためには、試料の直径を小さくする必要があります。
（１）の空洞共振器法（摂動法）では、マイクロ波帯と同様にQの高い摂動共振器を作成しようとすると、共振器の直径および、高さが大きくなり、その結果非常に長い測定試料を用意しなければならなくなり、作成が困難となる。
（２）の誘電体共振器法では、材料自身が共振器となるためには、試料寸法が巨大となり作成が困難となる。
摂動共振器法において、試料のあるときとないときの共振周波数およびQの逆数の変化から複素誘電率を求める摂動公式を図2に示します。共振器は、通常円筒TM010共振器や、矩形TE１０ｎ共振器が用いられます。試料は、電界のみ存在する中心部分に置きます。摂動公式が成り立つためには、試料の直径を小さくする必要があります。
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図２．摂動公式 （円筒TM0n0モードを用いる摂動空洞共振器法） |
岩塩試料はもろいので、長い測定試料（円筒試料）を製作することが困難です。そのため、空洞共振器の高さは低くする必要があります。
共振器の高さが低い場合には、共振器のQも低下しますが、従来のJIS法やASTM法のような挿入孔のある共振器では測定誤差が大きくなるため、新しい共振器の開発が必要になりました。そこで、マイクロ波帯において提案されていた、「挿入孔のない摂動共振器を用いる複素誘電率測定法」を用いて、1GHzで動作する円筒TM010摂動共振器をKeycom・馬渕技研と共同で開発しました（2002） この共振器は、写真１のように試料を電極にはさんだ状態で、フレームを上下する方式です。
その後、SNDの目標となる周波数帯のV-UHF帯において、300MHｚ（成蹊大学 直径750mm）・200MHz（首都大学東京 直径1200mｍ）の摂動共振器の開発を行っています。この周波数帯では共振器の直径が大きくなるため、フレーム方式でなく別の方法を用いています。
○改良された試料挿入孔封鎖型V-UHF帯摂動共振器（2008年現在）
この新しい高精度摂動空洞共振器の特徴は以下の通りです。
（１）従来のマイクロ波帯の共振器では、共振器の直径と高さの比はほぼ同程度でしたが、この比率でUHF帯の共振器を作成すると、直径が1mオーダーになるため、試料の長さも1m近くになってしまい作製が困難となります。そこで、試料の長さを100mmとしました。（試料の直径は最大30mmです）
（２）このような高さの低い円筒共振器においても、共振器のQが低下しないように、側面とふたの部分の接触方法を工夫しました。また、共振器の軽量化を目的とし、材質を導電率の高いAl合金としました。この結果、共振器のQは、300MHz共振器で10,000、200MHzで8,000程度を維持することができました。
（３）共振器の高さを低くした場合、従来のJIS法（C-2565）（図2）やASTM法（D-2520）のように、試料挿入孔から試料を挿入する方法では測定誤差が増大することが知られています。（池田ら：「摂動法による誘電率測定における試料挿入穴の影響」, 電子情報通信学会 信学技法No.MW2001-13, 2001-12）そこで、マイクロ波帯で提案した、試料を上下電極ではさんだまま挿入する方法(上野良一，上條敏生：「マイクロ波帯における摂動法による誘電率測定法」, 電子通信学会 マイクロ波研究会資料, No.MW87-42, 1987-9)をUHF帯の共振器に適用することとしました。マイクロ波帯に比べて共振器直径が大きくなるため、新たな試料挿入機構を考案し（図３）、高精度の試料挿入穴封鎖型共振器を作製しました。
（４）挿入孔（ガイドとなっている）がないため、試料を正確に中心に置くことができるように、虹彩絞りを用いたアライメント冶具を開発しました。
（５）従来のマイクロ波帯の共振器では高次モードの影響を避けるためTM020モードで測定する場合が多かったのですが、この共振器では高さが低いため常にTM010基本モードでの測定が可能となりました。
（6）測定誤差の要因となる試料と電極間の接触圧力を微調整できるような機構を考案しました。
（７）この共振器は試料挿入孔がない非常にシンプルな構造なため、理論的な誤差等をシミュレーションすることが容易です。
共振器の高さが低い場合には、共振器のQも低下しますが、従来のJIS法やASTM法のような挿入孔のある共振器では測定誤差が大きくなるため、新しい共振器の開発が必要になりました。そこで、マイクロ波帯において提案されていた、「挿入孔のない摂動共振器を用いる複素誘電率測定法」を用いて、1GHzで動作する円筒TM010摂動共振器をKeycom・馬渕技研と共同で開発しました（2002） この共振器は、写真１のように試料を電極にはさんだ状態で、フレームを上下する方式です。
その後、SNDの目標となる周波数帯のV-UHF帯において、300MHｚ（成蹊大学 直径750mm）・200MHz（首都大学東京 直径1200mｍ）の摂動共振器の開発を行っています。この周波数帯では共振器の直径が大きくなるため、フレーム方式でなく別の方法を用いています。
 写真１．1GHz Cavity Resonator |
 写真２．300MHz Cavity Resonator without sample insertion holes （300MHz 最初の設計） |
 写真３.Compex permittivity measurement by dielectric resonator method (Courtesy of Keycom) |
○改良された試料挿入孔封鎖型V-UHF帯摂動共振器（2008年現在）
この新しい高精度摂動空洞共振器の特徴は以下の通りです。
（１）従来のマイクロ波帯の共振器では、共振器の直径と高さの比はほぼ同程度でしたが、この比率でUHF帯の共振器を作成すると、直径が1mオーダーになるため、試料の長さも1m近くになってしまい作製が困難となります。そこで、試料の長さを100mmとしました。（試料の直径は最大30mmです）
（２）このような高さの低い円筒共振器においても、共振器のQが低下しないように、側面とふたの部分の接触方法を工夫しました。また、共振器の軽量化を目的とし、材質を導電率の高いAl合金としました。この結果、共振器のQは、300MHz共振器で10,000、200MHzで8,000程度を維持することができました。
（３）共振器の高さを低くした場合、従来のJIS法（C-2565）（図2）やASTM法（D-2520）のように、試料挿入孔から試料を挿入する方法では測定誤差が増大することが知られています。（池田ら：「摂動法による誘電率測定における試料挿入穴の影響」, 電子情報通信学会 信学技法No.MW2001-13, 2001-12）そこで、マイクロ波帯で提案した、試料を上下電極ではさんだまま挿入する方法(上野良一，上條敏生：「マイクロ波帯における摂動法による誘電率測定法」, 電子通信学会 マイクロ波研究会資料, No.MW87-42, 1987-9)をUHF帯の共振器に適用することとしました。マイクロ波帯に比べて共振器直径が大きくなるため、新たな試料挿入機構を考案し（図３）、高精度の試料挿入穴封鎖型共振器を作製しました。
（４）挿入孔（ガイドとなっている）がないため、試料を正確に中心に置くことができるように、虹彩絞りを用いたアライメント冶具を開発しました。
（５）従来のマイクロ波帯の共振器では高次モードの影響を避けるためTM020モードで測定する場合が多かったのですが、この共振器では高さが低いため常にTM010基本モードでの測定が可能となりました。
（6）測定誤差の要因となる試料と電極間の接触圧力を微調整できるような機構を考案しました。
（７）この共振器は試料挿入孔がない非常にシンプルな構造なため、理論的な誤差等をシミュレーションすることが容易です。
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Cross-sctional View of ImprovedCavity Resonator |
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Improved 300MHz Cavity Resonator without sample insertion holes at Seikei University |
Improved 200MHz Cavity Resonator without sample insertion holes at Tokyo Mtropolitan University |
測定試料 世界の岩塩、鉱物、NaCl単結晶、低損失誘電体など
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Rock salt sample, Hockley mine, U.S.A. | Samples measured around 10GHz |